渡邊太, 2010, 解説:木村洋二「笑いの統一理論」, 『笑いの科学』2号, pp.2-8

笑いによるリアリティ・キャンセルは、たまたま間主観的に構成されたひとつの世界を唯一不変の現実と信じて疑わない《物象化した精神》を打ち砕き、世界を転覆すると同時にカセクシス出力の自在性を高め、「より自由でしなやかな世界構成への生理学的条件を準備する」(木村, 1983: 74)ものである。……

渡邊太, 2010, 笑いと未知なるものへの愛―バタイユの内的体験と木村理論を手がかりとして, 『笑いの科学』2号, pp.12-19

G・バタイユは、自分の哲学は笑いの哲学だといった(Bataille, 1976=1999)。極限的な笑いの体験のうちに極端なまでの自由を直感したバタイユは、笑いこそが諸世界の底、事物の根源に到達する手段であることを理解した。バタイユの内的体験は、恍惚のうちに自己を消失し、理性の彼方まで突き進む一種の神秘体験であった。それは、シャーマニズムの憑依や忘我、トランス状態にも近接するような変性意識の体験だったと考えられる。だが、なぜ笑いなのか。なぜバタイユは笑いのうちに事物の根源を見いだしたのか。……