【テーマセッション】『「生駒の神々」再訪――後期近代の視点』
「宗教と社会」学会第19回大会(北海道大学

趣旨説明:渡邊太(大阪大学
報告:
1)對馬路人(関西学院大学)「占い:門前町の今昔」
2)宮下良子(大阪市立大学)「在日コリアン寺院:世代交代によるネットワークの生成」
3)岡尾将秀(京都学園大学)・新矢昌昭(華頂短期大学)「修験寺院の変容」
4)柴田悠(立命館大学)・渡邊太(大阪大学)「滝行場:スピリチュアリティ文化」
5)三木英(大阪国際大学)「霊園:聖地の変容」
コメント:谷富夫(甲南大学)・藤田庄市(宗教情報リサーチセンター)

 生駒山地の民俗宗教に関する全域的な調査は、戦前に栗山一夫(赤松啓介)がおこなっている。栗山の調査を参考にしながら、1980 年代前半に「宗教社会学の会」による共同調査が実施された。その成果として出版されたのが『生駒の神々』(創元社、1985 年)である。
 その序文で塩原勉は、都市近郊の生駒山で現世利益を求める呪術的儀礼が活発におこなわれているという事実に研究者たちがカルチャーショックを受けたことを述べている。塩原は、生駒の調査をつづける過程で、宗教の「合理化」や「世俗化」といった既成の社会学理論の再考を迫られたという。後に塩原は、「私たちが驚きを禁じえなかったことの一つは、昭和初期と現在とで、生駒の宗教活動の総量と水準にそれほど大きい差がないのではないか、ということであった」(塩原勉「転換する日本社会」新曜社、1994 年、61 頁)と述べている。戦前の栗山の調査と1980 年代の宗教社会学の会の調査の間には半世紀の隔たりがある。その間、ずっと同じ水準を維持していたのか、衰退と復興のサイクルを経たのかはわからないが、戦前のデータと80 年代のデータの間にほとんど差がないという事実は、それだけで十分にインパクトがあったのだ。
 「宗教社会学の会」は、2009 年から再び全域的な追跡調査を開始した。調査は現在も進行中であるが、変化の兆しは見えつつある。まず、地政学的変化として宅地開発の拡張とモータリゼーションの進展による人の移動の変化がある。それに関連して、いくつかの滝行場ではトンネル工事による水脈の衰退で大きな影響を被った。宗教活動の全体的な傾向としては、呪術的な儀礼は当時ほど活発ではなくなり、信者の高齢化も進みつつあることが確認されている。宗教者の世代交代も進み、修験系寺院では世代交代により祈祷寺から檀家寺へと活動をシフトしたところも見られる。在日コリアン寺院では、世代交代の際に宗教活動が継承されず廃墟同然の無住寺になっているところも少なくないが、その一方で、世代交代による新しいネットワークの生成も見られる。また、新しい宗教性の萌芽として、滝行場や修験系寺院のなかで現世利益を志向せず個人主義的なかかわりを特徴とするスピリチュアリティの探求が見られた。
 このセッションでは、追跡調査で得られたデータをもとに、30 年前の「生駒の神々」と現在とを比較する。その上で、生駒の民俗宗教の動態に関する理論的考察を試みたい。
(渡邊太)